イップスの選手に指導者・保護者ができること|原因を決めつけず、対策を教えすぎない
イップスに悩んでいる選手を見ていると、指導者や保護者は、
- どうしてこの場面で出るのだろう
- こうしてみたら出なくなるのではないか
- 本当に治したいと思っているのだろうか
と、さまざまなことを考えると思います。
本人を何とか助けたいという気持ちがあるからこそ、原因を探し、助言をしたくなるのは自然なことです。
しかし、イップスに対する周囲の働きかけは、内容によっては本人をさらに悩ませてしまう場合があります。
今回は、通院中の卓球選手からの相談をもとに、イップスの選手に対して指導者や保護者がどのように関わればよいのかをお伝えします。
出る時と出ない時があるのがイップス
今回の相談では、次のような様子が聞かれました。
- 場面によってイップスが出たり、出なかったりする
- 同じ日の練習でも、出る時と出ない時がある
- 「ここから調子を上げて頑張ろう」としたときに出る
- 苦手な戦型や「負けたくない」と思う相手に出やすい
- 自分より格上だと認識している相手には出ない
- イライラしたときに出ることがある
- 反対に、怒りが強くなり「もう、どうにでもなれ」という状態になると出なくなる
このように、イップスはいつも同じように出るとは限りません。
相手、場面、感情、意識の向け方などによって、症状の出方が変わることがあります。
だからこそ、周囲も本人も、
- 気持ちが弱いから出る
- 勝ちたいと思いすぎているから出る
- イライラする考え方が悪い
- 負けたときの言い訳として使っている
などと、原因を単純に決めつけないことが大切です。
「イップスを負けた理由にしている」と決めつけない
苦手な相手や負けたくない相手のときにイップスが出ると、周囲には「イップスがあった方が、負けた理由にできて本人にとって都合がよいのではないか」と見えることがあります。
これは「その通り」で、無意識に「イップスだから負けても仕方ない」とイップスを負けの理由付けにしていることが治らない原因になる場合があります。
しかし、結果として自分を守るような無意識が原因となっていた場合でも、それは本人が意識的に選んでいるわけではありません。
本人に、
- 本当は治したくないのではないか
- イップスに逃げているのではないか
- 自分からイップスになりにいっている
と問い続けても無意味で、逆に、本人は症状だけでなく、自分の意思や性格まで疑われているように感じてしまいます。
本人が「治したい」と話しているのであれば、まずはその言葉を受け止めることが大切です。
治したくても、自分ではコントロールできないからこそ、イップスに悩んでいるのです。
「こうしてみれば?」が本人を苦しめることがある
イップスに悩む選手に対して、周囲はつい、
- もっと力を抜いてみたら?
- 考えすぎない方がいい
- 失敗を気にしないでやればいい
- 自信を持ってやればいい
- フォームをこう変えてみたら?
と助言したくなります。
しかし、その多くは本人もすでに考え、何度も試しています。
力を抜きたいのに抜けない。
考えないようにしたいのに、意識してしまう。
普段どおりに動かしたいのに、体が反応しない。
それがイップスです。
「こうしてみれば?」という助言が増えるほど、本人の中には「それでもできない自分」が積み重なります。
さらに、自分の動きを細かく監視するようになり、自然にできていた動作まで意識的にコントロールしようとしてしまうことがあります。
周囲に悪気がなくても、助言が新たな課題となり、本人の悩みを深めてしまう可能性があるのです。
出る場面の分析と、原因の決めつけは違う
イップスがどのようなときに出るのかを整理することは大切です。
ただし、出た場面を確認することと、その場面を原因と決めつけることは違います。
例えば、
- 「ここから頑張ろう」と思ったときに出た
- 負けたくない相手に出た
- 苦手な戦型の相手に出た
- イライラしたときに出た
という事実があったとしても、
- 本当は頑張りたくない
- プレッシャーに弱い
- 負けることから逃げている
- 考え方や性格に問題がある
という意味になるわけではありません。
その場面は、イップスが起こる条件の一部であって、原因そのものとは限らないからです。
当院では、イップスを次のように捉えています。
場面と無意識の自分の反応が結びつき、イップスという体の反応が起こっている状態
つまり、
「この相手だからイップスになった」
「頑張ろうとしたからイップスになった」
と単純に考えるのではなく、その場面とどのような無意識の反応が結びついているのかを丁寧に確認していきます。
無意識の自分は、ネガティブなものだけではない
「無意識が関係している」と聞くと、恐れ、不安、劣等感、逃避などのネガティブな感情を探そうとする方がいます。
しかし、イップスに関係する無意識の自分が、必ずしもネガティブなものとは限りません。
例えば、
- もっと強くなりたい
- 試合に勝ちたい
- チームに貢献したい
- 周囲の期待に応えたい
- 自分の可能性を証明したい
という成長意欲や向上心が関係する場合もあります。
強くなった理想の自分を思い描く一方で、まだそこに到達できていない現状の自分がいます。
この理想と現状の不一致に、無意識の自分が反応していることがあります。
また、本来は前向きな「強くなりたい」という思いが、
- 強くならなければならない
- 絶対に負けてはいけない
- 失敗してはいけない
という義務や執着に近い状態まで過剰になっていることもあります。
大切なのは、ネガティブな自分を悪者として探し出すことではありません。
ポジティブかネガティブかを判断するのではなく、今の自分の中で何が過剰になっているのか、何と何が一致していないのかを本人が認識していくことです。
当院では体の反応を指標に確認します
無意識の自分は、普段から本人が頭で考えていることとは限りません。
そのため、
- 何が原因だと思う?
- 本当はどう感じているの?
- 何か隠している気持ちがあるのでは?
と問い続けても、本人が答えられないことがあります。
答えたくないのではなく、自分でも分からないのです。
当院では、チャートを使いながら、体の反応を指標として、イップスに関係している無意識の自分を確認していきます。
そして、施術者が一方的に原因を決めるのではなく、本人が自分の反応を元に自分で認識することを大切にしています。
当院の考えでは、無意識の自分も、脳と体の中を流れている一つの信号です。
その信号が過剰になったり、複数の信号が混線したりすると、体の動きや反応に影響し、本来のパフォーマンスを発揮できなくなる場合があります。
イップス改善で大切なのは、その信号を責めることではなく、混線した信号を一つずつ整理していくことです。
怒ると出なくなることを「正解」にしない
今回の相談では、相手にイライラしたときにはイップスが出るものの、怒りを通り越して「もう、どうにでもなれ」という状態になると、逆にイップスが出なくなるという話がありました。
この変化は重要な観察ですが、
- 怒ればイップスが出なくなる
- 考えない状態になればよい
- もっと開き直ればよい
と、対策に変換しないことが大切です。
怒りがよいという意味でも、イライラする思考が悪いという意味でもありません。
心身の状態が変化したことで、それまで成立していたイップスの条件付けが、一時的に成立しなくなった可能性があります。
このような変化は、本人の状態を理解する手がかりにはなりますが、再現させるべき方法とは限りません。
観察した事実を、そのまま改善方法にしないことが重要です。
指導者・保護者が大切にしたい3つの関わり方
1.できたかではなく、練習の目的に意識を向ける
イップスがあると、本人も周囲も「今日は出たか、出なかったか」ばかりを確認するようになります。
しかし、毎回症状を評価されると、本人はイップスを監視しながら競技をすることになります。
大切なのは、その練習で何を身につけようとしているのかを明確にすることです。
例えば、フォアハンドの練習であれば、
- コースを打ち分ける練習なのか
- 打点を確認する練習なのか
- ラリーを続ける練習なのか
- 試合の組み立てを想定した練習なのか
目的を本人と共有し、その目的に意識を向けます。
イップスが出た場合も、
- また出た
- どうしてできない
- この動きを直さなければ
と考えるのではなく、
「この場面で出たな」
と、事実を確認する程度にとどめます。
症状が出続け、練習の目的を達成できない状態になった場合は、同じ動作を長時間繰り返させるのではなく、一定のところで切り上げる、別の練習に移るなどの調整も必要です。
これは逃げることではありません。
うまくいかない動作を何度も反復し、本人の中にイップス体験を積み重ねないための調整です。
2.イップスの原因を勝手に決めつけない
指導者や保護者から見えるのは、イップスが出た場面と、そのときの本人の様子です。
その情報は大切ですが、そこから本人の心の中まで断定することはできません。
- 負けたくないから出た
- プレッシャーに弱いから出た
- 自己防衛のために出している
- 本当は治す気がない
と決めつけることは避けましょう。
周囲は、観察した事実を本人や施術者に伝えるだけで十分です。
原因を考えるときには、本人の認識と体の反応を大切にしながら、施術の中で丁寧に確認していきます。
3.イップス対策を安易に指導しない
指導者は、競技について詳しい専門家です。
卓球の指導者であれば、卓球の技術、戦術、練習方法、試合の組み立てなどを指導します。
一方で、イップスは単純な技術不足ではありません。
そのため、フォームを変える、持ち方を変える、反復練習を増やすといった技術的な対策だけでは改善しにくいことがあります。
一時的に持ち方や動作を変えることでプレーできたとしても、それが根本的な改善を意味するとは限りません。
指導者がイップスについて十分に理解していない段階で、原因や対策まで指導しようとすると、本人が何を信じて取り組めばよいのか分からなくなることがあります。
競技については指導者が指導し、イップスについてはイップス治療の専門家と連携する。
この役割分担が大切です。
イップスの施術中であることを理解したうえで、その日の状態に応じて競技指導や練習量を調整することが、選手への大きなサポートになります。
保護者は「原因を聞き出す人」にならなくてよい
保護者は、試合や練習の後に、
- 今日はどうだった?
- また出たの?
- 何が原因だったと思う?
- 先生に言われたことはできた?
と聞きたくなると思います。
しかし、本人が毎回イップスについて説明しなければならない状態になると、競技をしていない時間まで症状に意識が向いてしまいます。
保護者がすることは、原因を聞き出すことではありません。
本人が話したいときには話を聞き、必要な施術や練習環境を整え、改善に向けた取り組みを続けられるように支えることです。
「どうすれば出なくなるか」ではなく、
- 今、何か手伝ってほしいことはある?
- 今日は競技の話をしたい?それとも休みたい?
というように、本人が必要なサポートを選べる関わり方がよいでしょう。
周囲の役割は、治すことではなく治りやすい環境をつくること
イップスを改善させようとして、周囲が多くの助言や分析を与え、注目してあげる必要はありません。
むしろ、次のような環境をつくることが大きなサポートになります。
- 原因を決めつけない
- 本人の治したいという気持ちを疑わない
- 出たか出なかったかを毎回評価しない
- 安易なイップス対策を指導しない
- 競技練習の目的を明確にする
- 必要に応じて練習内容や量を調整する
- 施術の専門家と情報を共有する
指導者や保護者が、イップスを治そうと背負う必要はありません。
指導者は競技の成長を支え、保護者は安心してイップス治療や競技を続けられる環境を支える。
そして、イップスに関係する無意識の反応については、本人と施術者が一緒に整理していく。
それぞれが役割を分けることで、本人は必要以上に追い詰められることなく、イップス改善と競技の成長に向き合いやすくなります。
イップスに悩む選手・保護者・指導者の方へ
イップスは、本人の努力不足や気持ちの弱さによって起こっているわけではありません。
また、特定の場面で出るからといって、その場面に対する本人の考え方が悪いと決めつけることもできません。
本人も分からない無意識の条件反射が関係しているからこそ、頭で考えた対策だけでは思うように改善しないことがあります。
当院では、体の反応とチャートを使いながら、イップスに関係している無意識の自分を一緒に確認し、混線した信号を整理するサポートを行っています。
選手本人だけでなく、どのように関わればよいか悩んでいる保護者や指導者の方からのご相談も受け付けています。
イップスへの対応に迷っている方は、一人で抱え込まずにご相談ください。

























