ピアノイップスのZoomサポート症例|人前で苦手箇所になると手が思うように動かなくなる
本症例は、ピアノ演奏中に起こるイップス症状に対して、Zoomサポートを6回行った結果をご紹介します。
本症例では、コーチングの質問技法を用いながら、症状の背景にある脳の誤作動記憶に気づくサポートを行いました。
Zoomサポートの詳細はこちら、
「脳の誤作動記憶」など専門用語の補足はこちらをご覧ください。
クライアントについて
50代女性。主婦。ピアノ歴30年以上。
症状
家では弾けるにもかかわらず、人前で演奏すると、苦手な箇所で指が硬くなって動かなくなってしまう。
きっかけ
約1ヶ月前の人前での演奏。
これまでの対策
苦手な箇所を繰り返し練習したり、テンポを落として練習。
自己対策後の変化
効果は少しあったものの、人前での不安や手の動きにくさは残る。
初回:症状の背景にある「監視」と「完璧主義」に気づく
初回のZoomサポートでは、まずピアノイップスの状態を詳しく確認しました。
症状は、曲全体で起こるわけではなく、1曲の中の苦手な箇所で起こっていました。
家では弾けるものの、人前になると手が思うように動かず、頭がパニックになり、実際には短い停止でも、ご本人には10秒ほど止まっているように感じられていました。
お話を深めていくと、次のような内面の反応が見えてきました。
- 「手が止まらないか」を常に監視している自分
- 「ミスしてもいいけれど、音楽の流れを止めてはいけない」という自己ルール
- 「友達やプロ、上級者にどう思われるか」を気にしている自分
- 「この曲は超上級の曲だから、しっかり弾かなければならない」という思い込み
また、本来は「感情を込めて弾きたい」という思いがある一方で、人前では「手堅く弾こう」「止まらないようにしよう」という意識が強くなっていました。
つまり、表現したい自分と、失敗を避けたい自分の間に不一致が起きていたのです。
初回では、イップスを「脳の誤作動記憶」として説明し、心と体の信号の混線を認識していくことが改善の方向性になることを共有しました。
初回の脳の誤作動記憶の可能性
- 「手が止まらないか」を常に監視している
- 「ミスしてもいいけれど、音楽の流れを止めてはいけない」
- 「友達やプロ、上級者に良く見られたい、評価されたい」
- 「この曲は超上級の曲である」
2回目:力を抜こうとするほど力が入るパターンを確認
2回目のサポートでは、実際に人前で弾いた後の状態を確認しました。
難しい箇所まではゾーンに入っているような感覚で弾けていたものの、問題の箇所に入ると前腕が硬直し、指は動いている感じがあるのに、正しい音ではなく違う音になってしまう状態がありました。
ここで確認したのは、演奏中に「頭から指令を出して弾こうとしている」ことです。
ご本人は、正しい音を出すために、自分の中のフォームや音を頭で確認しながら弾こうとしていました。
また、先生から「力を抜くように」と言われていたこともあり、「力を抜かなければ」という意識が強くなっていました。
しかし、力を抜こうと過剰に意識することで、かえって体が硬くなりやすい状態がありました。
さらに深めると、「正しい音を出さなければならない」「音を外してはいけない」という自己ルールが見えてきました。
子どもの頃から本番に強く、ノーミスの子と言われてきた経験もあり、「できて当たり前」「失敗しない自分」という過去の成功体験が、現在のプレッシャーにつながっている可能性がありました。
この回では、悪いところだけを探して修正しようとするのではなく、できている部分も含めて客観的に見ることの大切さを確認しました。
2回目の脳の誤作動記憶の可能性
- 演奏中に、自分で指令を出して動きをコントロールしようとしている
- 「力を抜いて弾かなければならない」
- 「正しい音を出さなければならない」
- 「音を外してはいけない」
- できて当たり前、失敗はしてはならない
3回目:予期不安と「人前では家のように弾けない」という思い込み
3回目のサポートでは、人前で弾く機会がなかったため症状そのものは確認できませんでしたが、別の先生のレッスンでは家のように弾けたという報告がありました。
その先生から「難しいと思いすぎていませんか?」と言われ、ご本人も、苦手な箇所を必要以上に難しく見ていたことに気づかれていました。
一方で、次回の人前演奏を想像すると、「苦手な箇所が来るぞ」「ちゃんと弾かなければ」「家のように弾かなければ」となり、固まってしまうのではないかという予期不安が残っていました。
この回では、過去に手が止まった場面を「失敗」と解釈し、その失敗を「とんでもない音を出した恥ずかしい失敗」と捉えていたことが明らかになりました。
また、ピアノ仲間のレベルが高いため「そのレベルの一員になりたい」という思いや、他者評価によって自己満足を得ようとする自分も見えてきました。
その一方で、本当に得たいものは、他者評価ではなく、自分自身の達成感や納得感であることも認識されました。
この回の大きなポイントは、
「人前で家のように弾くことは難しい」
という自己ルールに気づいたことでした。
3回目の脳の誤作動記憶の可能性
- 「苦手なパート=難しい」
- 「苦手なパートは、ちゃんと弾かなければならない」
- 過去の失敗を「恥ずかしい失敗」と強く解釈している
- 「上手な仲間と同じレベルになりたい」
- 自分の納得感よりも、他者からどう見られるかが気になっている
4回目:止まる恐怖が減り、自分の演奏の軸を確認
4回目のサポートでは、前回以降の変化として、レッスンで先生に褒められたこと、ピアノ仲間4人の前でも弾けたことが報告されました。
「止まらないかな」と考えずに弾けるようになり、「止まったらまた弾けば良い」と思えるようになったと報告されました。
この時点で、翌日のホール演奏に対しても「8割大丈夫」と思える状態になっていました。
この回では、改めてイップスの原因として関係していたものを整理しました。
- 「また止まるんじゃないか」という思い
- 苦手な箇所が来る前に身構える反応
- 「止まってはいけない」「スラスラ弾かなければいけない」という自己ルール
- 「みんなが知っている大曲だから、しっかり弾かなければならない」という思い
- プロや先生の演奏と自分を比較してしまうこと
さらに深めていくと、過去に気持ちよく弾けた経験に対して「またあの演奏をしたい」という執着があることにも気づかれました。
この回の最後には、「自分にとって良い演奏とは何か」を確認しました。
その結果、良い演奏とは、完璧に弾くことではなく、「自分が気持ちよく弾けること」であると大事なポイントを認識されました。
4回目の脳の誤作動記憶の可能性
- 「止まってはいけない」「スラスラ弾かなければならない」
- プロや先生の演奏と自分を比較している
- 「良い演奏=完璧に弾くこと」という思い込みから、「自分が気持ちよく弾けること」へ整理された
- 「みんなが知っている大曲だから、しっかり弾かなければならない」
5回目:人前で音を楽しめる状態へ
5回目のサポートでは、前回のサポート後の人前演奏について、普通に適度な緊張感と興奮度で、フラットな感じで弾けたと報告がありました。
結果として、普通に音を楽しめる感じがあり、平常心で演奏できたとのことでした。
弾く前には他者からの言葉によるプレッシャーもありましたが、落ち着くルーティンを行い、他を気にしないで弾くことができたようです。
ご本人にとって良い演奏とは、
「自分が出したい世界や音、こういうふうに弾きたいという表現が、音を聞きながらできたとき」
であると整理されていました。
この時点で、以前のような「止まるかもしれない」という強い恐怖はかなり減っており、「何で止まっていたんだろう」という感覚も出てきていました。
ご本人も「イップスは出ていないと思う」と話されていました。
一方で、20〜30人の前で弾く本番に向けては、まだ他者評価への不安が残っていました。
そのため、5回目では、イップス症状そのものへの予期不安と、他者評価への自然な不安を分けて整理しました。
5回目の脳の誤作動記憶の可能性
- 他者評価への意識
6回目:完璧に弾きたい自分と、言い訳を用意したい自分の不一致
6回目のサポートでは、ピアノの状態に加えて、坐骨神経痛のような痛みが出ていることも報告されました。
本番が近づく中で、痛みがある状態でも弾くのか、弾けなかったらどうなるのかという不安が出ていました。
サポートを進めると、「坐骨神経痛だから」と弾く前に伝えたい自分がいることがわかりました。
その背景には、プライドを守りたい気持ちや、「本当はもっと弾けていたのに、弾けなくなっている」という不安に対して、「言い訳を用意したい自分」がいる可能性が見えてきました。
また、今回の演奏は自分のレベルよりも上のレベルの人が挑戦する曲だから「身の程知らずで、みんなが大好きな曲を弾いてごめんなさい」と懺悔してから弾く演出のある演奏会にも関わらず、本音では、「完璧に弾きたい」「良いホールで良い音を出したい」という思いがありました。
この回では、次のようないくつもの不一致に気づいていきました。
- 失敗しても仕方ない一方で、本当は完璧に弾きたい自分がいる
- でも100点を出したいとは言い切れない自分
- 痛みを理由に安心したい自分
6回目の脳の誤作動記憶の可能性
- 本番で弾けなかったらどうしようという不安
- 「坐骨神経痛だから弾けなくても仕方ない」と考えることで、自分を守ろうとしている可能性
- 自分の実力を低く見せながらも、本当は上手に弾きたい、評価されたい気持ちがある
- 「身の程知らず」と言いながらも、本音では「完璧に弾きたい」
経過のまとめ
この方のピアノイップスは、単に技術不足や練習不足だけで起きていたものではありませんでした。
もちろん、難しい曲であり、技術的な課題もありました。
しかし、Zoomサポートの中で見えてきたのは、技術面だけではなく、次のような心と体の信号の混線でした。
- 止まってはいけない
- 流れを止めたら音楽ではなくなる
- 人前で家のように弾くのは難しい
- 正しい音を出さなければならない
- ノーミスでなければならない
- この曲を弾くには、もっと高いレベルでなければならない
- 他者から上手いと思われたい
- プロや上級者と比べてしまう
- 失敗して当たり前の前提なのに、本音は完璧に弾きたい
これらを一つひとつ認識していく中で、症状は変化していきました。
最初は、人前で苦手箇所になると身体が硬くなり、指が思うように動かない状態でした。
しかし、サポートを重ねる中で、友達の前で弾けるようになり、レッスンでも良い状態で弾け、少人数の前でも演奏できるようになりました。
さらに、「止まったらまた弾けば良い」「止まっても大したことではない」と捉え直せるようになり、人前でも音を楽しめる感覚が戻ってきました。
考察
ピアノイップスでは、苦手な箇所そのものよりも、無意識の自己ルールや症状が出ることへの予期不安が大きなスイッチになることがあります。
今回の症例でも、苦手な箇所に対して多くの自己ルールが関係していたことが認識できました。
認識することによって、心の誤作動信号が整い、体の信号が整い、本来の自分でピアノに向き合うことができるようになっていきました。
今回のサポートでは、症状を無理に抑え込むのではなく、症状の背景にある自己ルール、予期不安、他者評価、完璧主義、過去の成功体験や失敗記憶を質問によって認識していくことが、とても上手にできたことが、ピアノイップス改善の大きな要因だったと考えています。
同じようなピアノイップスでお悩みの方へ
- 家では弾けるのに、人前になると手が固まる
- 苦手な箇所が近づくと、頭が真っ白になる
- 頭ではわかっているのに、指や腕が思うように動かない
- 練習すればするほど、その箇所が怖くなる
このような状態は、単なる緊張や技術不足だけでは説明できないことがあります。
バースデーカイロプラクティックでは、ピアノイップスを「脳の誤作動記憶」として捉え、心と体の信号の混線を整理しながら、自然に演奏できる状態を取り戻すサポートを行っています。
遠方で来院が難しい方には、Zoomサポートも行っています。
ピアノイップスでお悩みの方は、一人で抱え込まずご相談ください。

























